あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。東京駅のカフェで初老の男が店員に注文を伝えると、先に着席していた小学生の女の子が「どら焼きのセットにすればいいのに」と言い、かつて3人で食べたよねと畳みかける。再読すると、少女が初対面の男を知悉していることを強調する冒頭シーンの繊細さに驚かされる。その後の約300頁は、男と読者が抱く「違和感」を解きほぐすことにあてられる。手塚治虫『火の鳥』や折口信夫『死者の書』を思い起こさせる展開だ。著者は人生の岐路を主題としてきた作家だ。「記憶」をカギとする本作もその系譜にある。「まさか」と思える出来事に現実味を与えるのは、細やかな生活描写だ。感動の場面は無数にあるが、満月の夜に一人でどら焼きを食べたくなる「究極の愛」の物語だと評するにとどめたい。とにかくラストがすごい。評者:朝山実
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。東京駅のカフェで初老の男が店員に注文を伝えると、先に着席していた小学生の女の子が「どら焼きのセットにすればいいのに」と言い、かつて3人で食べたよねと畳みかける。再読すると、少女が初対面の男を知悉していることを強調する冒頭シーンの繊細さに驚かされる。その後の約300頁は、男と読者が抱く「違和感」を解きほぐすことにあてられる。手塚治虫『火の鳥』や折口信夫『死者の書』を思い起こさせる展開だ。著者は人生の岐路を主題としてきた作家だ。「記憶」をカギとする本作もその系譜にある。「まさか」と思える出来事に現実味を与えるのは、細やかな生活描写だ。感動の場面は無数にあるが、満月の夜に一人でどら焼きを食べたくなる「究極の愛」の物語だと評するにとどめたい。とにかくラストがすごい。評者:朝山実